The calm before the storm -side.management-

真夜中になっても、大都市シエル・ロアの高層ビル街は昼間の様に明るい。
人工灯に照らされるこの区画を「美しい」と表現する人もいるが、高層ビル街の中でも一際高い建物の最上階から眺める女性の眼には何の感慨も浮かんでいなかった。

「やぁやぁアイシャ!【主】から聞いたかい?」

不意に部屋の扉が開き、廊下から妙にテンションの高い男が室内に入ってくる。
アイシャと呼ばれた女性が振り返ると、男は掴みどころのないヘラヘラとした笑みを浮かべながら言った。

「とうとう“ゲーム”が始まるらしいねぇ。僕らの出番だよ」
「……そうですね」

 アイシャはそれだけ言って、ふいと視線を外に戻す。
男を道化師と例えるなら、アイシャはまるで人形だ。テンションこそ正反対だが、「人間味が感じられない」という一点だけはこの二人に共通していた。

「ねぇねぇアイシャ」
「なんですか、ピアチェ」

男――ピアチェはアイシャの傍まで行くと、同じように外に視線を落とした。
ビルとビルの間を幾台もの車が行き交い、道路を歩く人もいる。だが、全ての世界と隔絶されているかのように、室内には静寂が満ちていた。

「どこが勝つと思う?どの組織も結構拮抗してるけど、パワーバランス的にはさー」
「関係ありません」

ピエチェの台詞を一刀両断したアイシャは右手を自分の左胸に当てた。左胸には天秤をモチーフとした紋章が描かれている。

「私達“運営委員会”の成すべきことはゲームの監視と速やかな進行。どこが勝とうと、どこが負けようと関係ありません。 私達はただ、この都市の【主】の命にのみ拘束されるのですから」

アイシャの台詞を聞いたピアチェは少しだけ驚いた表情を見せた。普段は必要以上の事を話さないアイシャがこれだけ饒舌になるのは珍しい。
表情こそ変わっていないが、敬愛すべき【主】からの命令に歓喜しているのだろう。
ピアチェは元の貼りつけた様な笑みに戻ると、肩をすくめてみせた。

「……ふふっ。そうだねぇ、僕が間違ってたよ。“運営委員会”は、唯一にして決して揺るがざる天秤。それ以上でもそれ以下でもなかったねぇ」
「えぇ、全ては―――」
「「【主】の為に」」


To Be Continued...